ギリシャの首都アテネを歩くと、街路には食用に向かない観賞用のオレンジの木々が目立つ。そしてオリーブの木も、背の高い木から鉢植えまで、公共の場や個人宅玄関など随所で目にする。

オリーブはギリシャの特産品だ。同国では葡萄や桃といった木になる作物の面積の約8割をオリーブの木が占めており、膨大なオリーブの実が生産されている。その本数は約1億6千万本以上にも上るといい、国民1人当たりにして15本以上所有していることになる。

生活になくてはならないオリーブ

漬物にする実(テーブルオリーブ)は、それらのオリーブの木々全体の1割強から収穫されるという。間食やおつまみにしたり、フレッシュな野菜のサラダにも煮込み料理にも使い、ギリシャの食卓になくてはならない存在だ。市場やスーパー、土産店には多数のオリーブが並び、観光のお土産にするにも事欠かない。

オリーブの木を加工したキッチン用品や調理器具、装飾品などを売る店もあり、見ているだけで楽しい。フレンドリーな店員が、家族経営ですべてハンドメイドだと教えてくれた。

残り9割近くの木々から採れるオリーブは、オリーブオイル生産に使われる。ギリシャはオリーブオイルの世界の主要産地として、スペイン、イタリアに次ぎ3位を誇る。しかし各国において、オリーブオイル総生産量のうち最高級のカテゴリー「エキストラバージン」が占める割合を見ると逆転し、1位がギリシャ、続いてイタリア、スペインとなる。ギリシャではエキストラバージンが8割も占めており、イタリアでは5割、スペインは2割のみだ。

また、国民1人当たりの年間オリーブオイル消費量はなんと17ℓ以上(統計により多少異なる)で、ギリシャは世界で最もオリーブオイルを消費している。4割がパンやサラダにかけて生食する、3割が料理の材料として使う、3割が焼き料理に使っているという。

先日、アテネでテーブルオリーブの専門店を訪ね、別の店ではオリーブオイルのテイスティングも楽しんだ。2店とも、アテネに旅行したらぜひ行ってみてほしい場所だ。

お洒落なオリーブの専門店「ARIANA」

アテネにはテーブルオリーブの専門店はほとんどなく、2021年にオープンした「アリアナ (ARIANA ギリシャ語ではAPIANA)」はホットなスポット。経営者はギリシャ中部のオリーブ農家、カロタナシス家の3代目。国内のインテリア賞も受賞したこの店では、自分の農園を始め、全国から集めた様々なオリーブを量り売りしている(瓶入りや袋入りも販売)。アテネ市内のレストランにもオリーブを卸している。

開放的な雰囲気で店員も親切で、市民が愛用している中央市場のすぐそばにあり、アクセスも抜群だ。店にいた間、地元の人が買いに来て行列ができ、人気の高さがうかがえた。

完熟前に収穫された風味が強いグリーンオリーブ、栄養価が非常に高い熟したブラックオリーブ(色は黒や紫など成熟度で異なる。天日干ししたブラックオリーブもある)が20種以上美しく並べられている。じっくり選びたいなら、テイスティングもさせてもらえる。皿に取ったオリーブに、エキストラバージンオリーブオイル(以下EVOO=Extra Virgin Olive Oil)をひとかけしてくれた。

産地でいえば、グリーンもブラックも国内最大のオリーブ畑が広がるアンフィサ(同店農園がある)産、アテネの西側のペロポネソス半島西南部にあるカラマタ (カラモンとも呼ばれる)産のブラックオリーブ、北部のハルキディキ半島で採れるグリーンオリーブを多く置いており、北東部のアトス半島のアトス山(山周辺には修道院が集まっており、アトス山はユネスコの世界遺産)のブラックオリーブや、南部のクレタ島のグリーンオリーブもある。

アンフィサ産はほんのり甘く、羊やヤギの乳が原料のフェタチーズとよく合う。フルーティーな風味のカラマタ産は「オリーブの女王」とも呼ばれ、国外でもよく知られている。サラダによく合い、オリーブペーストを作るのにも最適だ。ハルキディキ産は少し酸味があり、ピーマンやニンニク、ドライトマトやアーモンドなど中に詰めものをするのに向いている。

サイズの面での発見もあった。EVOOの主要な原料となるコロネイキ種は非常に小粒だった。コロネイキの主要産地は、ペロポネソス半島やクレタ島北部だ。

一方、大きめのカラマタ種を上回る巨大な黄茶系のオリーブは、ダマスキノエリエス(ダマスキノエリエア)種。写真の小皿のように他の種類と比べると、ダマスキノエリエスの大きさは際立つ。1粒20グラム以上で英語ではプラムオリーブといい、ロバのオリーブ、英雄のオリーブと呼ばれることもあるそうだ。ダマスキノエリエスは、ペロポネソス半島のアルゴスでのみ栽培されている。

珍しいのでダマスキノエリエスを購入して、アテネに住む知人にプレゼントした。「これほど大きい粒は初めて食べる」と驚いていた。

「エキストラバージン」オリーブオイルの味比べ

以前から興味があったオリーブオイルのテイスティングは、ワイン好きの親子3人が開いたギリシャワインの専門店「チンクエ(Cinque)」を選んだ。店ではワインに加え、スーパーなどでは入手できない少量生産の希少な国産EVOOも販売しており、それらの風味比べができる。

ガイドは奥さんのエヴァンゲリアさんで、ご主人のグリゴリスさんも挨拶してくれた。テーブルには4種類のEVOOが用意された。オイル製造工程の説明の前に、ギリシャのEVOOの典型的な香りを嗅いだ。1種類ずつ嗅ぎ、どんな香りかを当てていった。青リンゴやバナナ、ミントなど芳香と、カビの臭い(品質管理が良くない場合はオリーブにカビが生え、オイルも悪臭を放つ場合がある)も嗅ぎ、なかなか面白かった。

オリーブオイルの製造工程はシンプルだ。収穫したオリーブは、葉を混ぜると苦味が出るため葉を取って洗浄する。機械でオリーブを荒くつぶしてペースト状にし、攪拌する。次に遠心分離機にかけ、オイル、水分、果肉・種を分けてオイルを抽出する。

この1番絞りのオイルは、低温圧搾した「エキストラバージン」だと100g中の酸度が0.8%を越えず、「バージン」は酸度が2%を越えない。エヴァンゲリアさんによると、ギリシャでは「エキストラバージン」の酸度は0.3%と低めが多いという。

そしてオイルは容器に詰めるまで、酸素の入っていないタンクで保存される。1番絞りを精製したものと「エキストラバージン」や「バージン」とのブレンドは、単に「オリーブオイル」というカテゴリーになる。

テイスティングには、青いグラスを使う。なぜ青なのかというと「オイルの色は品質に関係しないので、評価する時に色の影響を受けないようにするためです」とエヴァンゲリアさんは教えてくれた。

まずはオイルが入ったグラスを少しずつ鼻に近付けて、香りを嗅ぐ。次に片手でグラスを覆い、もう一方の手でグラスを包んで底を数分温める。再び鼻に近づけると、オイルの香りが先ほどよりも遠い距離から漂うことがわかる。温めたことで香りが強くなったのだ。少量のオイルを口に含んだら、口を横に開いてシーという音を立てるくらいに口に空気を入れる。口の中全体でオイルを味わってから飲み込む。1種類終わったら青リンゴのスライスやパンを食べ、試したオイルの風味を消してから別の種類を同じ方法で試していく。

4種類は、とてもマイルドなものから辛みの強いものまでバラエティーに富んでいた。AEGEAN GOLDは、トルコの目と鼻の先にあるレスボス島で育ったコロビ、アドラミティアニ、ラトリアの3種類のブレンド。コロビは岩だらけの土壌で育ち、野生のハーブの強い風味がある。アドラミティアニはフルーティーな香りが特徴。ラトリアは滑らかでやや甘味がある。このEVOOは、国際フェアなどで60回以上も受賞しているという。

SOLIGEAもブレンドで、コロネイキとギリシャで育つ希少種のマナキの2種を合わせている。ゴマの風味がして、ほんのり辛みがある。ENA ENA ORGANICは、100%コロネイキ種。環境に配慮した栽培法は国際基準を満たしている。土壌の8割は砂で、樹齢 200 年になる木々もあるという。フルーティーだが、辛みと苦味が強い。AGESは、トルコとの国境に近い北東部のマクリ村だけで育つマクリ種を早摘みし、90分以内にオイルを搾り出す。バナナ、青リンゴ、トマトなどの香りが高く、甘め。生産量は非常に限られている。

テイスティングには、たっぷりのテーブルオリーブに加え、フェタチーズ、オリーブペースト、チェリートマト、そして青リンゴのスライスやパン、水もついている。軽めのランチを兼ねてと思っていたが、お腹は十分満たされた。

この数年、家でギリシャ産のEVOOをサラダやパスタにかけたり、中温で加熱して使ったりしている。良質のEVOOをもっと試して数種を揃え、料理によって使い分けてみたくなった。

ARIANA(ギリシャ語ではAPIANA)
 
・テーブルオリーブの販売に加え、自家製やほかの地域から取り寄せたエキストラバージンオイルも販売している。
・開店日:月~土 7時半~15時半

Cinque Wine & Deli Monastiraki(Cinqueは全部で3店ある)
 
・筆者はガイド付きを試した。ガイドなしや、ワインのテイスティングとのコンビコースもある。
・開店日:月 18時半~24時  火~土 12時~24時

Photos by Satomi Iwasawa

岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/